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等式・不等式の証明の「正しい書き方」へのコツ
証明…響きがイヤですね。
実際に「証明」と聞いて「うわー…なんか色々書かないといけないやつでしょ?書き方も細かいし、イヤ!嫌い!」という人も(たくさん)いると思います。むしろ「証明?あぁ…なんかあったけど、テストのとき毎回捨ててたよ」という人も(かなり)いると思います。
確かに証明は書かないといけないことが多いですね。
でもそれは、あくまで「この式が正しいかどうかを客観的に説明する」ために必要な書き方ですので、ちゃんと論理的に考えていれば自然と「この文言が必要だな」というのがわかってきます。
この記事では「等式・不等式の証明」にフォーカスを当てて説明していきます。
等式・不等式の証明の基本
せんせい!等式の証明ってなんなんですか!?
なんなんですか…って?証明ですよ?どういう質問?
いや、もうそこに式があるのに、何を証明するんですか?
あぁ…まぁ確かにそういう意味では、なにをしているのかわかりにくいかもしれませんね。じゃあ、どういう「心掛け」で証明すればいいか?の基本から説明しましょう。
等式の証明
例をあげたほうがわかりやすいですね。例えば、次のような問題があります。
問.次の等式を証明せよ。
\( a^5-b^5=(a-b)(a^4+a^3b+a^2b^2+ab^3+b^4) \)
確かに、この式、結論から言えば成り立つのですが、じゃあ証明は?と言われたら次のようなスタンスで記述していくことになります。
\( a^5-b^5=(a-b)(a^4+a^3b+a^2b^2+ab^3+b^4) \)という式があるらしいんだけど、これが本当に成り立つかどうかはわかんないんだ。
だから、本当に(左辺)=(右辺)が成り立つのかどうか調べてくれない?
調べて、正しいことを説明してくれない?
こんな感じですね。
んー…じゃあ、この等式は「=」で結ばれているけど、それは本当に「=」なのかわかんない?ってことですか?
そういうことですね。
…ん?じゃあ、どうやってこの式が「=」で結ばれるか、というのを示すんですか?
そこが重要ですね。
ポイントは(左辺)と(右辺)は別物として考える、という点です。
(左辺)は左辺の式、(右辺)は右辺の式として別々に考えて、それぞれ色々式変形をした結果「同じものだね」という結論にもっていきます。
具体的には、次のアプローチの方法があります。
- (左辺)(または(右辺))をとにかく式変形しまくって(右辺)(または(左辺))と同じ形にもっていく。そうすれば「(左辺)=(右辺)」になる。
- 「(左辺)ー(右辺)」の式を立てて式変形をする。結果「(左辺)ー(右辺)=…計算…=0」という計算結果にもっていく。0になれば、「(左辺)ー(右辺)=0」なので、移項することで「(左辺)=(右辺)」になるよね。
- (左辺)=…計算…=□、(右辺)=…計算…=□、というふうに別々に式変形した結果、同じものになったとしたら、当然「(左辺)=(右辺)」としていいよね。
それぞれ、以下のような場合に使えます。当然、「やりやすい」という話で、必ずしもそのやり方でやらないといけないわけではないです。
①は、(左辺)もしくは(右辺)がシンプルで、それを式変形をするのは逆に面倒、というときに使いやすいです。
②は、同じような項が出てきそうなときに使いやすいです。あまり使用頻度は高くないと思います。
③は、(左辺)もしくは(右辺)をもう一方の形にもっていくのが面倒なときに使いやすいです。例えば、どちらもある程度因数分解した形、とか。「(左辺)=…展開…=□←展開しっぱなし、一方、(右辺)=…展開…=□←展開しっぱなし」みたいな感じです。
あと、条件式がくっついてくるときもあります。が、そのときも基本的なアプローチは同じです。正直、条件式がつかない等式の証明の方が珍しいと思います。
では、実際に等式の証明をしていきましょう。
先ほどのこの式\( a^5-b^5=(a-b)(a^4+a^3b+a^2b^2+ab^3+b^4) \)は本当に成り立っているかわからないので、
(左辺)=\(a^5-b^5\)
(右辺)=\((a-b)(a^4+a^3b+a^2b^2+ab^3+b^4) \)
と、別々に考えて、等式が成り立つか?を確認していきます。
今回は左辺がやたらとシンプルなので、こいつを色々式変形していくのは逆に面倒です。
ですので、右辺をガリガリ計算して、結果左辺の形が現れると嬉しいな、いや、むしろ証明なんだから現れるだろ?というアプローチ(要は①)でいきます。
いつものように途中で注釈も入れていくので、そのままテストなんかには書かないでくださいね。
(証明)
(右辺)=\((a-b)(a^4+a^3b+a^2b^2+ab^3+b^4) \)
=\( a^5+a^4b+a^3b^2+a^2b^3+ab^4 \)
\(-a^4b-a^3b^2-a^2b^3-ab^4-b^5 \)(←ほとんどの項が打ち消し合う)
=\(a^5-b^5\)(←やっぱり左辺と同じ形になった!)
=(左辺)(終)
問.等式\( (a_1^2+a_2^2)(b_1^2+b_2^2)=(a_1b_1+a_2b_2)^2+(a_1b_2-a_2b_1)^2 \)を証明せよ。
解答
省略。
不等式の証明
じゃあ、不等式の証明はどうするんですか?
(左辺)と(右辺)が別物、と考えるのは同じですが、不等式ですので若干アプローチが変わります。
例えば次のような問題ですね。
問.次の不等式を証明せよ。また、等号が成り立つのはどのようなときか。
\( (a^2+b^2)(x^2+y^2) \geq (ax+by)^2 \)
不等式の場合、基本的なアプローチの仕方は次のようになります。
- (大きいと思われる方)ー(小さいと思われる方)=…計算…=□となったときに、□が何らかの理由で0より大きい(または0以上になる)ことを示す。すると、
(大きいと思われる方)ー(小さいと思われる方)\( > 0 \)(または\( \geq 0 \))
が成り立つので、移項して、
(大きいと思われる方)\( > \)または\( \geq \)(小さいと思われる方)
という事実が示される。 - 有名不等式を使う。
基本は①です。①を拡張した(大きいと思われる方)\(^2\)ー(小さいと思われる方)\(^2\)=…を計算する方法もありますが、注意点も多いので次の「おまけ」で説明します。
②の有名不等式は高校レベルで言えば「相加・相乗平均の大小関係」です。他にも有名な不等式はありますが、使わない方が無難かな、と思います。(多分大学教授とかは気にしないと思います。が、高校の先生は「それ使っていいの?知ってるの?ちゃんと証明したんだろうなぁ?」という人もいると思います。)
では、実際にこちらも証明していきましょう。
\( (a^2+b^2)(x^2+y^2) \geq (ax+by)^2 \)も左辺と右辺が別物である、と考えた上で本当に\(\geq\)が成り立つのか?というスタンスで考えていきます。つまり、
(左辺)=\( (a^2+b^2)(x^2+y^2)\)
(右辺)=\((ax+by)^2 \)
として、考えるのですが、先ほどから言っている(大きいと思われる方)、(小さいと思われる方)というのは今回で言えば、
(大きいと思われる方)→(左辺)
(小さいと思われる方)→(右辺)
ですよね。「本当にそうなのか、調べてみないとわからない」という意味合いを込めてこのように言います(私は、ですけど)。長ったらしくて面倒ですが。
先ほどの①で考えていくと、
(左辺)ー(右辺)=…計算…=□
として、この□が何らかの理由で0以上になることを示していきます。
(証明)
(左辺)ー(右辺)
\(=(a^2+b^2)(x^2+y^2)-(ax+by)^2\)
\(=a^2x^2+a^2y^2+b^2x^2+b^2y^2\)
\(-a^2x^2-2abxy-b^2y^2\)
\(=a^2y^2-2abxy+b^2x^2=a^2y^2-2ay \cdot bx +b^2x^2\)
\(=(ay-bx)^2 \)(←これって\( ( \quad )^2 \)だから0以上ですよね。)
\(=(ay-bx)^2 \geq 0 \) (※)
よって、(左辺)ー(右辺)\( \geq 0 \)が成り立つので。
\( (a^2+b^2)(x^2+y^2) \geq (ax+by)^2 \)
また、等号成立は(※)で\((ay-bx)^2 = 0 \)、つまり
\( ay-bx = 0 \)が成り立つときなので、\( ay=bx \)のとき。(終)
こちらでも紹介しましたが、平方完成なんかもよく使いますね。
例題.次の不等式を証明せよ。
\(x^2-4xy+5y^2 > 2y-3\)
(証明)
(左辺)ー(右辺)
\( = x^2-4xy+5y^2-(2y-3) \)
\( = (x-2y)^2-4y^2+5y^2-2y+3 \)
\( = (x-2y)^2+y^2-2y+3\)
\( = (x-2y)^2+(y-1)^2+2 > 0\)
よって、\(x^2-4xy+5y^2 > 2y-3\)(終)
おまけ「二乗の差を取る不等式の証明」
不等式の証明の応用問題です。証明としての注意点も多いので、気をつけて記述していきましょう。
…。(そういうのイヤだな)
問.次の不等式を証明せよ。また、等号が成り立つのはどのようなときか。
\( |a+b| \leq |a|+|b| \)
んー…、これはさっきのやり方じゃダメなの?(大きいと思われる方)ー(小さいと思われる方)…。
(大きいと思われる方)→(右辺)
(小さいと思われる方)→(左辺)
ですね。このまま先ほどのアプローチで計算してみましょう。
(証明)
(右辺)ー(左辺)
\( = |a|+|b|-|a+b|\)
…?
ん?計算できない…?これって普通に計算するのは無理ですよね?
そうですね、こういうときは2乗の差をとります。
つまり、こういうことですね。
(大きいと思われる方)\(^2\)ー(小さいと思われる方)\(^2\)=…計算…=□で、□が何らかの理由で0より大きく(または0以上)になることを示します。
すると、(大きいと思われる方)\(^2\)ー(小さいと思われる方)\(^2\)\(>0\)(または\( \geq 0 \))となるので、
\( \Leftrightarrow\)(大きいと思われる方)\(^2\)\(>\)(または\( \geq \)) (小さいと思われる方)\(^2\)。この2乗をとっぱらって、
(大きいと思われる方)\(>\)(または\( \geq \)) (小さいと思われる方)…(ここ注意)
となります。
ただぁし!!
おわ!びっくりした…。なんですか、急に…。
(ここ注意)に、一行上から移るときに注意が必要です。
「え?別に何が問題なの?」と思った人、ここはこの証明の最大の注意点です。
例えば、\( 4 < 9 \)という不等式を考えましょう。この不等式自体は問題ないですね?
この不等式を\( 2^2 < 3^2 \)とみなして、2乗をとっぱらうと、
\( 2 < 3 \)となります。この不等式も問題はないですね?
2乗をとっても問題ないじゃん。
ですが、この不等式\( 4 < 9 \)を次のようにみなすとどうでしょうか。
\( (-2)^2 < (-3)^2 \)
え?だって…、いや、まぁ4と9だからそうみなせなくもないけど。
だれも正の数(正確には0以上の数)を2乗したもの、とは言ってないですよね?
あ…いや…でも…。
2乗をとっぱらいましょう!
\( (-2) < (-3) \)…?はい!コレ明らかにおかしいですね!
ああぁ…。
ということで、このタイミングで「2乗する前の式が0以上である」ということを述べないといけません。
…はい、わかりました。
おそらく証明が苦手、という人はこういうところを「これを書かないと減点される。覚えなきゃ。」と思っているのではないでしょうか?
確かにそうなんですが、そうすると、覚えなくてはいけないことが多すぎて困りませんか?証明なんか山ほど問題があるのに、いちいち「ここでコレを書かくのを覚えておこう!」ははっきり言ってムリです。
証明って説明なんですよね。
しかも、突っ込まれたらいけない説明です。
でも、要は突っ込まれないように説明すればいいんです。
そこで重要なのは「たられば精神」ですね。「もしこうだったらどう記述するべきだろう…」「もしこうであればどう解くべきだろう…」。
常に様々な可能性を考えながら問題を解くクセをつければ証明問題も怖くありません。
こちらの記事でもそのような考え方の重要性を載せているので、ぜひご一読ください。同じく不等式を題材にした記事です。
さて、前置きが長くなりましたが、2乗をとっぱらうときに、元の式がどちらも0以上だ、と言わないとそのままとっぱらえない、ということですね。
\( |a+b| \leq |a|+|b| \)を示すために、
(大きいと思われる方)\(^2\)ー(小さいと思われる方)\(^2\)を計算する。
ちなみに、\(|a|^2=a^2\)、\(|b|^2=b^2\)、\(|a+b|^2=(a+b)^2\)といった感じで絶対値は2乗したら外れる、という性質を使っています。
(証明)
(右辺)\(^2\)ー(左辺)\(^2\)
\( = (|a|+|b|)^2-(|a+b|)^2\)
\(=a^2+2|a||b|+b^2-(a+b)^2\)(←\(|a|=x\)、\(|b|=y\)として\((x+y)^2=x^2+2xy+y^2\)の展開公式で計算)
\(=a^2+2|ab|+b^2-a^2-2ab-b^2\)(←\(|a||b|=|ab|\))
\(=2(|ab|-ab)\geq 0\)(←\(|ab| \geq ab\)だからです。)
よって、\( (|a|+|b|)^2-(|a+b|)^2 \geq 0 \)
\( (|a+b|)^2 \leq (|a|+|b|)^2\)
\(|a+b| \geq 0\)、\(|a|+|b| \geq 0\)なので(←ここがポイント)
\( |a+b| \leq |a|+|b| \)(終)
まとめ
「証明は苦手!」という人が多いですが、証明は突っ込まれないように説明をするものだ、と思ってください。
そして、よくある「この記述を書く、ということを覚えておかないと」という考え方はあまりよくないと思います。
このような考え方は「数学的な思考の放棄」に繋がるので、問題によってしっかりと考えるクセをつけていきましょう。
特に等式・不等式の証明は書き方というか、スタンスが重要です。
「まだ成り立つかわからないんだ」「だから左辺と右辺を別物として扱おう」という形で証明していきましょう。