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ド・モアブルの定理とは?証明と例題を丁寧に解説
ド・モアブルの定理は複素数平面の分野でも、とても綺麗で使いやすい、重要な定理です。
複素数平面では「積=回転」が重要ですが、それを「\(n\)乗」に拡張した考え方ですね。
この記事では、ド・モアブルの定理の証明と例題を紹介していきます。
ド・モアブルの定理とは
問題です。
よしきた!もう突然の問題にも慣れましたよ!
\(x^2=1\)を解いてください。
簡単ですよ!\(x = \pm 1\)です!
正解!では\(x^3=1\)を解いてください。
今度は\(-1\)は答えじゃないですね!\(x=1\)です!
はい!ぶー!!(複素数の範囲だと)まちがいでーす!!
なぜじゃあ…。
今回の話は複素数平面の「ド・モアブルの定理」。
結論だけ見れば非常に簡単ですが、とても役に立つ定理です。上のような問題を解くときにもよく使われます。
まぁ、この問題は無理にド・モアブルの定理を使わなくても解けますけどね。
ド・モアブルの定理
複素数\(z= \cos{\theta}+i \sin{\theta} \)について、\(z\)を\(n\)乗すると、
\(z^n = \cos{n\theta}+i \sin{n\theta} \)
が成り立つ。
\( (\cos{\theta}+i \sin{\theta})^n = \cos{n\theta}+i \sin{n\theta} \)
と書いてもよい。
ただし、\( n\)は整数である。
日本語で説明すると、極形式表示した「絶対値が1の複素数\(z\)」を\(n\)乗すると、偏角\(\theta\)は\(n\theta\)になる、という定理です。
とてもスッキリした定理ですね。証明しておきましょう。
ド・モアブルの定理の証明
数学的帰納法で証明します。「数学的帰納法?」という人はこちら。
\( (\cos{\theta}+i \sin{\theta})^n = \cos{n\theta}+i \sin{n\theta} \)…①
を証明する。
(証明)
[1]\(n=1\)のとき、
(①の左辺)\( = (\cos{\theta}+i \sin{\theta})^1 = \cos{\theta}+i \sin{\theta}\)
(①の右辺)\( = \cos{1\cdot\theta}+i \sin{1\cdot\theta} = \cos{\theta}+i \sin{\theta}\)
よって成り立つ。
[2]\(n=k\)のとき、①が成り立つと仮定する。つまり、
\( (\cos{\theta}+i \sin{\theta})^k = \cos{k\theta}+i \sin{k\theta} \)
が成り立つとする。このとき①が\(n=k+1\)の式
\( (\cos{\theta}+i \sin{\theta})^{k+1} = \cos{(k+1)\theta}+i \sin{(k+1)\theta} \)…②
が成り立つことを示す。
(②の左辺)\(= (\cos{\theta}+i \sin{\theta})^{k+1}\)
\(\quad = (\cos{\theta}+i \sin{\theta})^k(\cos{\theta}+i \sin{\theta}) \)
\(\quad = (\cos{k\theta}+i \sin{k\theta})(\cos{\theta}+i \sin{\theta}) \)(仮定より)
\(\quad = \cos{k\theta}\cos{\theta} – \sin{k\theta}\sin{\theta}\)
\(\quad\quad +i(\sin{k\theta}\cos{\theta}+ \cos{k\theta}\sin{\theta}) \)
\(\quad = \cos{(k\theta+\theta)}+i \sin{(k\theta+\theta)}\)
\(\quad = \cos{(k+1)\theta}+i \sin{(k+1)\theta}\)=(②の右辺)
[1][2]より、すべての自然数\(n\)について①が成り立つ(終)
「すべての整数\(n\)」で示さないといけないので、\(n \leq 0\)についても証明しておきます。
\(n=0\)のときの証明
(証明)
(①の左辺)\( = (\cos{\theta}+i \sin{\theta})^0 = 1\)
(①の右辺)\( = \cos{0}+i \sin{0} = 1\)
よって\(n=0\)のときも成り立つ(終)
\(n < 0\)の整数のときの証明
(証明)
\(n < 0\)のとき\(n=-l\)(\(l\)は自然数)とおける。つまり、
\( (\cos{\theta}+i \sin{\theta})^{-l} = \cos{(-l)\theta}+i \sin{(-l)\theta} \)…③
を示す。
(③の左辺)\(= (\cos{\theta}+i \sin{\theta})^{-l}\)
\(\displaystyle \quad = \frac{1}{ (\cos{\theta}+i \sin{\theta})^{l} }\)
\( \displaystyle \quad = \frac{1}{ \cos{(l\theta)}+i \sin{(l\theta)} }\)(\(l\)は自然数だから先ほどの結果を使ってOK)
\(\displaystyle \quad = \frac{\cos{(l\theta)}-i \sin{(l\theta)}}{ \{ \cos{(l\theta)}+i \sin{(l\theta)} \}\{ \cos{(l\theta)}-i \sin{(l\theta)} \} }\)
\(\displaystyle \quad = \frac{\cos{(l\theta)}+i\{- \sin{(l\theta}\}}{ \cos^2{(l\theta)}+ \sin^2{(l\theta)} }\)
\(= \cos{(-l)\theta}+i \sin{(-l)\theta} \)(\(\cos{\alpha}=\cos{(-\alpha)}、-\sin{\alpha}=\sin{(-\alpha)}\)の性質を使った)
よって③は成り立つ(終)
ちょっと長ったらしいですが、これで証明終了です。\(n < 0\)のときに、\(n > 0\)の結果が使いまわせるのが面白いですね。
んー…。それで、この「ド・モアブルの定理」がさっきの問題と関係あるんですか?
ド・モアブルの定理を使った例題「n乗根を求める」
先ほどの問題は、普通は次のように解きます。
(解)
\(x^3 = 1\)より
\(x^3-1 = 0\)
\( (x-1)(x^2+x+1)=0\)(因数分解の公式)
よって、\(x = 1\)または\(x^2+x+1 = 0\)
\(x^2+x+1 = 0\)より、解の公式を使って、
\(\displaystyle x=\frac{-1 \pm \sqrt{1^2-4 \cdot 1 \cdot 1}}{2 \cdot 1} \)
\(\displaystyle \quad=\frac{-1 \pm \sqrt{-3}}{2} \)
\(\displaystyle \quad x =\frac{-1 \pm \sqrt{3}i}{2} \)
よって、\(\displaystyle x = 1 , \frac{-1 \pm \sqrt{3}i}{2} \)…(答)
む…。複素数の解を忘れてましたね。やっぱり適当に答えるんじゃなくて、きちんと因数分解するべきでした…。
そうですね。「複素数の範囲まで考えると、\(n\)次式は\(n\)個の解をもつ」という基本原則からしても、解が足りないな、というのがわかるはずです。
はーい…。で?さっきの「ド・モアブルの定理」はどこで使うんですか?
今の問題は次のように複素数の話をベースにして解くこともできます。
(解)
\(x^3 = 1\)を満たす複素数を\( z = \cos{\theta}+i\sin{\theta}\)(ただし、\( 0 \leq \theta < 2\pi \))とすると、
\(z^3=1\)
(\(z\)の絶対値は1です。なぜなら、\(|z| \neq 1\)と仮定すると、\(|z|^3 \neq 1\)、つまり\( z^3 \neq 1\)となるからです。)
\( ( \cos{\theta} + i \sin{ \theta } )^3 = 1 \)
\( \cos{3\theta} + i \sin{ 3 \theta } = \cos{0} + i \sin{0} \)
左辺と右辺の偏角を比較すると、
\( 3 \theta = 0 + 2k\pi \)(ただし、\(k\)は整数とする)
ここがポイント!\(3 \theta=0\)として\( \theta \)の値を求めたいところですが、\( 3\theta \)は\( 0 \leq 3\theta < 2\pi \)に収まる保証が無いので、この形にしておきます。そうしないと、3つの解が全て求められません。
よって、\(\displaystyle \theta = \frac{2k\pi}{3} \)
この\(\theta\)は\( 0 \leq \theta < 2\pi \)の範囲にあるので、
\(\displaystyle 0 \leq \frac{2k\pi}{3} < 2\pi \)
これを満たす整数\(k\)は\(k = 0 , 1 , 2\)
すなわち、\(\displaystyle \theta = 0, \frac{2}{3}\pi, \frac{4}{3}\pi \)
ゆえに、\(\displaystyle z = \cos{0}+i \sin{0}, \cos{ \frac{2}{3}\pi} + i \sin{\frac{2}{3}\pi},\cos{ \frac{4}{3}\pi} + i \sin{\frac{4}{3}\pi} \)
したがって、\(\displaystyle z = 1\),\(\displaystyle -\frac{1}{2} + \frac{\sqrt{3}}{2}i\),\(\displaystyle -\frac{1}{2} – \frac{\sqrt{3}}{2}i \)…(答)
なるほど…。最初から答を複素数の形(極形式)で表現しようとしている、ということですね。
その通りです。絶対値が1というところを押さえれば、後はド・モアブルの定理で解くことができます。
でも、まどろっこしく無いですか?
じゃあ次の問題を解いてみましょうか。
問.\(x\)の方程式\(x^5 = 1\)を解け。
…。
(解)
\(x^5 = 1\)より、\(x^5-1 = 0\)
\( (x-1)(x^4 + x^3 + x^2 + x + 1 ) = 0\)(※あとで解説します)
…
…スイマセンでした。
はい、ということで「\(n\)乗根を解く」という操作に「複素数でおく」という考え方は選択肢として持っておいてくださいね。
はーい。
ということで、複素数としておいて、ド・モアブルの定理を使います。
(解)
\(x^5 = 1\)を満たす複素数を\( z = \cos{\theta}+i\sin{\theta}\)(ただし、\( 0 \leq \theta < 2\pi \))とすると、
\(z^5=1\)
\( ( \cos{\theta} + i \sin{ \theta } )^5 = 1 \)
\( \cos{5\theta} + i \sin{ 5 \theta } = \cos{0} + i \sin{0} \)
左辺と右辺の偏角を比較すると、
\( 5 \theta = 0 + 2k\pi \)(ただし、\(k\)は整数とする)
よって、\(\displaystyle \theta = \frac{2k\pi}{5} \)
この\(\theta\)は\( 0 \leq \theta < 2\pi \)の範囲にあるので、
\(\displaystyle 0 \leq \frac{2k\pi}{5} < 2\pi \)
これを満たす整数\(k\)は\(k = 0 , 1 , 2, 3, 4\)
すなわち、\(\displaystyle \theta = 0, \frac{2}{5}\pi, \frac{4}{5}\pi, \frac{6}{5}\pi, \frac{8}{5}\pi \)
ゆえに、\(\displaystyle z = \cos{0}+i \sin{0}\), \(\displaystyle\cos{ \frac{2}{5}\pi} + i \sin{\frac{2}{5}\pi}\),\(\displaystyle\cos{ \frac{4}{5}\pi} + i \sin{\frac{4}{5}\pi}\),\(\displaystyle \cos{ \frac{6}{5}\pi} + i \sin{\frac{6}{5}\pi}\),\(\displaystyle\cos{ \frac{8}{5}\pi} + i \sin{\frac{8}{5}\pi} \)…(答)
うわぁ…三角関数まで入ってきてわけわかりません…。
でもまぁ、こうすれば解けることがわかりましたね。
頑張ります。
ちなみにさっきの太郎君のやり方でも解けますよ。
えっ!!…
(解)
\(x^5=1\)より\(x^5-1 = 0\)
\( (x-1)(x^4 + x^3 + x^2 + x + 1) =0\)(※)
\(x = 1\)または\(x^4 + x^3 + x^2 + x + 1 =0\)
\(x^4 + x^3 + x^2 + x + 1 =0\)について、\(x = 0\)はこの式の解ではないので、\(x \neq 0\)。
よって、この方程式を両辺\(x^2\)で割ることができて、
\(\displaystyle x^2 + x + 1 + \frac{1}{x} + \frac{1}{x^2} = 0\)
\(\displaystyle x^2 + \frac{1}{x^2} + x + \frac{1}{x}+ 1 = 0\)
\(\displaystyle \left(x + \frac{1}{x} \right)^2 -2 \cdot x \cdot \frac{1}{x} + \left( x + \frac{1}{x} \right)+ 1 = 0\)
\(\displaystyle \left(x + \frac{1}{x} \right)^2 + \left( x + \frac{1}{x} \right) – 1 = 0\)
\(\displaystyle x + \frac{1}{x} = t\)と置くと、
\( t^2 + t -1 = 0 \)
\(\displaystyle t = \frac{-1 \pm \sqrt{5}}{2} \)
\(\displaystyle x + \frac{1}{x} = \frac{-1 + \sqrt{5}}{2}, \frac{-1 – \sqrt{5}}{2} \)
\(\displaystyle x + \frac{1}{x} = \frac{-1 + \sqrt{5}}{2} \)のとき、
\(\displaystyle x^2 – \frac{-1 + \sqrt{5}}{2}x +1 = 0 \)
…\(\displaystyle x = \frac{ \frac{-1 + \sqrt{5}}{2} \pm \sqrt{-\frac{5 + \sqrt{5}}{2}} }{2} \)
\(\displaystyle x = \frac{-1 + \sqrt{5}}{4} \pm \frac{\sqrt{10 + 2\sqrt{5}}}{4}i \)
\(\displaystyle x + \frac{1}{x} = \frac{-1 + \sqrt{5}}{2} \)のときも同様に計算して、
\(\displaystyle x = \frac{-1 – \sqrt{5}}{4} \pm \frac{\sqrt{10 – 2\sqrt{5}}}{4}i \)
以上より、\(x = 1\),\(\displaystyle \frac{-1 + \sqrt{5}}{4} \pm \frac{\sqrt{10 + 2\sqrt{5}}}{4}i \),\(\displaystyle \frac{-1 – \sqrt{5}}{4} \pm \frac{\sqrt{10 – 2\sqrt{5}}}{4}i \)…(答)
(くそぅ…いじわるめ…。でも計算大変だな…。)
いじわるでもなんでもいいですけど、計算が大変だし、これ以上次数が増えたら計算が厳しいです。やっぱり複素数の形で置く、というのは重要ですね。
(なぜ心の声が聞こえるのだ…。さては自覚があるな?)
(※)について
一般的に、次のような因数分解ができます。
\(x^n -1 = (x-1)(x^{n-1}+x^{n-2}+\cdots+x+1)\)
これは、右辺を展開してくれてもわかりますし、左辺を組立除法で計算してくれてもわかります。
とにかく、この形に因数分解できる、というのはたまに使いますので覚えておいてもいいかもしれません。
まとめ
ド・モアブルの定理の説明・証明と、それを使って解く例題を紹介しました。
ド・モアブルの定理はシンプルでわかりやすく、使いやすい定理です。
問題を解く途中にも使ったりするので、しっかり押さえておきましょう。
複素数平面をしっかり学習したら、ぜひこちらも読んでみてください。
『数学ガールの秘密ノート』シリーズは基本から丁寧に話が進んでいくのでわかりやすいですし、なにより物語として面白いのでオススメです!