ベクトルの内積とは?公式や意味から実用問題まで

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ベクトルは高校生でも苦手だ、という生徒が多い分野です。

今回はその中でも「計算方法ばかり覚えたけど、結局これはなに?」となることの多い、

内積

について説明していきます。

ベクトルは現実世界でもさまざまな分野で活躍します。最近流行りのAIなんかも、実はベクトル(をもっと大きな括りで扱う線形代数)を使ったりします。

「ただの矢印」で終わってはもったいないベクトル分野。まずは内積から勉強していきましょう。

目次

内積の公式と求め方の確認

せんせ

はい、問題です!

たろぅ

ぎゃああぁぁ!!助けて!!

せんせ

(無視)内積の定義を述べてください。

たろぅ

あぁ、そのくらいなら…。

図を使った公式

ベクトルの内積の定義は次のようになります。

\( \overrightarrow{a}\)と\( \overrightarrow{b}\)の成す角(\(0° \leq \theta \leq 180°\))とすると、内積\( \overrightarrow{a} \cdot\overrightarrow{b}\)は次のように計算できる。

\(\overrightarrow{a} \cdot\overrightarrow{b} = |\overrightarrow{a}||\overrightarrow{b}| \cos{\theta}\)

たろぅ

どうですか!カンペキですね!

せんせ

では、成分を使った定義はどうですか?

成分を使った公式

\(\overrightarrow{a}=(a_1, a_2)\)と\( \overrightarrow{b}=(b_1, b_2)\)の内積\( \overrightarrow{a} \cdot\overrightarrow{b}\)は次のように計算できる。

\( \overrightarrow{a} \cdot\overrightarrow{b}=a_1 b_1 + a_2 b_2\)

同様に\(\overrightarrow{a}=(a_1, a_2, a_3)\)と\( \overrightarrow{b}=(b_1, b_2, b_3)\)の内積\( \overrightarrow{a} \cdot\overrightarrow{b}\)は

\( \overrightarrow{a} \cdot\overrightarrow{b}=a_1 b_1 + a_2 b_2 + a_3 b_3\)

たろぅ

どうですか!

せんせ

OKです。

たろぅ

やった!ちゃんと答えられた!

内積の求め方については、上記の計算方法を押さえておけばOKです。

どちらも内積の定義として重要です。図形的なアプローチと成分的なアプローチ…イメージ的には別々のアプローチが結びついた感じですが、そのあたりの細かいことはとりあえず置いておいて、しっかり押さえておきましょう。

内積の意味って?

せんせ

内積の図形的な意味合いはどうですか?

たろぅ

…ん?なんのことですか?

せんせ

内積の図形的な意味を説明してください。

たろぅ

誰か!!助けて!!

定義は定義で、それ以上でもそれ以下でもない、と言われればおしまいですが、内積の定義に図形的なイメージをもたせることもできます。内積の図形的な意味は次のようなイメージです。

内積のイメージ

相手のベクトルに影を落とすように垂線を下ろして(正射影という)、その長さと相手のベクトルの長さを掛ける感じです。

\( | \overrightarrow{a} | \cos{\theta}\)や\( | \overrightarrow{b} | \cos{\theta}\)の図形的な意味がわかりにくい、という人はこちらの記事もあわせて読んでみてください。

ベクトルの和・差を定義したあとで、やはり「ベクトルの掛け算」を考えたくなるのは自然でしょう。

ただ、ベクトルは「向き」と「大きさ」をもつものです。

そのなかで「掛け算」を定義しよう、というのはなかなか大変です。とりわけ、「向き」という要素をどのように考えるか、が難しいです。

その中でも、この内積はとてもよくできた定義ですね。

単純に相手の大きさを掛けるのではなく、「自分と同じ向きの要素」だけ取り出して掛ける、というところが面白く、そして使いやすい性質になっています。

実際にどのような場面で内積が使えるのか?については、次で説明していきます。

内積の性質

内積は、以下のようないくつかの性質があります。

性質①

\(-|\overrightarrow{a}||\overrightarrow{b}| \leq \overrightarrow{a} \cdot\overrightarrow{b} \leq |\overrightarrow{a}||\overrightarrow{b}|\)

これは、\(\overrightarrow{a} \cdot\overrightarrow{b} = |\overrightarrow{a}||\overrightarrow{b}| \cos{\theta}\)で\( -1 \leq \cos{\theta} \leq 1\)だからですね。内積は最小で大きさ同士を掛けたものにマイナスをつけたもの、最大でも大きさ同士を掛けたもの、になります。

性質②

\(\overrightarrow{a} \neq \overrightarrow{0}\)、\(\overrightarrow{b}\neq \overrightarrow{0}\)のとき、

\( \overrightarrow{a} \cdot\overrightarrow{b}=0 \Leftrightarrow \overrightarrow{a} \perp \overrightarrow{b} \)

ベクトルの垂直条件ですね。「内積=0のとき垂直」というのは図形の特徴として重要ですし、覚えやすいですし、計算した結果こうなるというケースが結構あるので、内積の性質の中でも最重要事項です。

性質③

\( \overrightarrow{a} \cdot\overrightarrow{a} = |\overrightarrow{a}||\overrightarrow{a}| \cos{0°}= |a|^2\)

これも地味ですが、かなり重要ですね。自分自身との内積を計算すると大きさの二乗になる、という性質です。

つまり、内積と大きさの二乗は密接に関係していて、内積があれば大きさを求めることができるし、逆に大きさから内積を計算することもできます。

性質④

  • \( \overrightarrow{a} \cdot\overrightarrow{b}=\overrightarrow{b} \cdot \overrightarrow{a} \)
  • \( (k\overrightarrow{a}) \cdot\overrightarrow{b}=\overrightarrow{a} \cdot (k\overrightarrow{b})=k(\overrightarrow{a} \cdot\overrightarrow{b}) \)
  • \( \overrightarrow{a} \cdot (\overrightarrow{b}+\overrightarrow{c}) = \overrightarrow{a} \cdot\overrightarrow{b} +\overrightarrow{a} \cdot\overrightarrow{c}\)

交換法則、実数倍、分配法則が成り立ちます。要は、普通の積の要領で計算していい、ということです。これによって、慣れれば展開公式を使うようにどんどん内積の計算ができるようになります。

内積の使い方

内積はかなり便利な利用方法が多いですので、いくつか紹介しておきます。

角度を求める

最初の図形的な内積の定義から、次の式がすぐに導かれます。

\( \overrightarrow{a}\)と\( \overrightarrow{b}\)の成す角(\(0° \leq \theta \leq 180°\))とすると、

\(\displaystyle \cos{\theta} = \frac{\overrightarrow{a} \cdot \overrightarrow{b}}{ |\overrightarrow{a}||\overrightarrow{b}|}\)

これを使って、内積と大きさから成す角を求めることができます

特に成分が与えられているときに内積は簡単に計算することができるので、成す角を逆算することが可能です。

実は4次元以上のベクトル空間では、逆にこの式を\(\cos{\theta}\)の定義としたりします。

大きさを求める

これは先ほど少し触れましたが、具体的に計算してみましょう。

せんせ

例えば、次のような問題があったとしましょう。

問.三角形OABがあって、\(|\overrightarrow{OA}|=5\)、\(|\overrightarrow{OB}|=3\)、\(\displaystyle \overrightarrow{OA} \cdot \overrightarrow{OB}=-\frac{15}{2}\)を満たすとする。このとき、辺ABの長さを求めよ。

こんなときに、実は内積の計算で大きさを求めることができます。

(解)

\( | \overrightarrow{AB} |^2 = |\overrightarrow{OB} – \overrightarrow{OA}|^2 \)

\( = (\overrightarrow{OB} – \overrightarrow{OA})\cdot(\overrightarrow{OB} – \overrightarrow{OA})\)

\( = \overrightarrow{OB} \cdot \overrightarrow{OB} – 2 \overrightarrow{OA} \cdot \overrightarrow{OB} + \overrightarrow{OA} \cdot \overrightarrow{OA} \)

\( = | \overrightarrow{OB} |^2- 2 \overrightarrow{OA} \cdot \overrightarrow{OB} +|\overrightarrow{OA}|^2 \)

\(\displaystyle = 3^2 -2 \cdot \left(-\frac{15}{2}\right) + 5^2 = 49\)

\( | \overrightarrow{AB} | \geq 0 \)より、\( | \overrightarrow{AB} | =7 \)。

よって\( AB =7 \)…(答)

よく、内積から\(\cos{\theta}\)を求めて、余弦定理を使う、という求め方をする生徒がいます。が、後ほど説明するように回りくどい回答になってしまいます…。

たろぅ

なるほど…さっき「内積と大きさの二乗は密接に関係している」っていってたのはこういうことですね。

せんせ

大きさを二乗すれば内積計算に持っていける…教科書や参考書ではサラッとテクニック的に流すところですが、\( \overrightarrow{a} \cdot\overrightarrow{a} = |a|^2\)という性質が関わってるというのは意識しておいてください

せんせ

ちなみに、先ほどの問題のコレ、なにか気づきませんか?

\( | \overrightarrow{AB} |^2 = | \overrightarrow{OB} |^2- 2 \overrightarrow{OA} \cdot \overrightarrow{OB} +|\overrightarrow{OA}|^2 \)

たろぅ

んー…ちょっとよくわかんないですけど…。

せんせ

こうしたらどうですか?内積の定義を使って、順番を入れ替えました。

\( | \overrightarrow{AB} |^2 = | \overrightarrow{OA} |^2+| \overrightarrow{OB} |^2- 2 |\overrightarrow{OA}| |\overrightarrow{OB}| \cos{\theta} \)

たろぅ

あ…、コレ、あれですよね?余弦定理じゃないですか?

せんせ

その通り!大きさを求める手法がそのまま余弦定理になっています!
このように、ベクトルは図形的な性質を自然に記述できるんですね!
ベクトルは「大きさ」と「向き」の二つの要素を同時に考えているので、そもそも思考の次元が一つ上だからです。
ですので、平行条件など「これでいいの?」というような条件もあります。

ということで、実はコレ、そのまま余弦定理の計算をしているんですね。ですので、わざわざ\(\cos{\theta}\)を求めると、無駄な計算をすることになります。

上級編.単位ベクトルとの内積

単位ベクトルとの内積をとれば、いわゆる正射影ベクトルの長さを得ることができます。単位ベクトルの成分にこれを掛ければ正射影ベクトルの成分表示を求めることができます!

たろぅ

…?外国語?それとも暗号?

そうなりますね。ひとつずつ説明していきましょう。

まず単位ベクトルというのは「大きさが1のベクトル」のことです。これを\( \overrightarrow{e}\)とすると、ベクトル\( \overrightarrow{a}\)との内積は次のようになります。

\( \overrightarrow{a} \cdot \overrightarrow{e}=|\overrightarrow{a}||\overrightarrow{e}|\cos{\theta} = |\overrightarrow{a}|\cos{\theta}\)

単位ベクトルとの内積

「大きさが1」というのはかなり重要な性質なんですね。あるベクトルとの内積を取れば、上記のように正射影(垂直に下ろした)ベクトルの大きさを求めることができます

さらに、その大きさを単位ベクトルに掛ければ正射影ベクトルを求めることができます。

平面に対する垂直なベクトルの求め方

これは座標空間において、平面に下ろした垂線のベクトルなんかを求めるときに使えます。座標空間で成分が与えられたときに内積の計算は比較的簡単にできるので、座標計算と図を上手く結びつけた形になります。

まとめ

今回は内積について解説しました。

「ベクトルって矢印のことでしょ?」という理解は、間違ってはいないです。ですが、ベクトル、というのは図形だけでなく、様々な場面で出てきます。

ベクトルが苦手な人が多いだけに、もったいないな、と思います。ですので、このブログの中でベクトルの有用性を少しでも伝えられればと思います。

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