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加法定理の公式一覧と証明のポイント(偏角の扱いについての詳細も)
加法定理は三角関数の各種公式の出発点です。
基本であり、山場であるこの「加法定理」。三角関数だけでなく、ちょくちょくと他の分野にも登場する重要公式です。
この記事では、加法定理の公式をまとめて、いくつかの証明方法を紹介します。
偏角の扱いや三角関数の基本性質など、ポイントになる点も図を使いながらわかりやすくまとめているので、ぜひご覧ください。
加法定理とは?公式一覧と説明
よくやる間違いなのですが、三角関数で次のように計算することはできません。
例.\( \sin{75°}=\sin{(30°+45°)}\)
\(=\sin{30°}+\sin{45°}\)←×です。しないでください!
ですが、例えば上のように「\( \sin{75°} \)を求めたい」というときもあります。
このようなときに使える公式が加法定理です。サイン、コサインの加法定理は具体的に次の公式になります。
加法定理(サイン、コサイン)
- \(\sin{(\alpha + \beta)}=\sin{\alpha} \cos{\beta} + \cos{\alpha}\sin{\beta}\)
- \(\sin{(\alpha – \beta)}=\sin{\alpha} \cos{\beta} – \cos{\alpha}\sin{\beta}\)
- \(\cos{(\alpha + \beta)}=\cos{\alpha} \cos{\beta} – \sin{\alpha}\sin{\beta}\)
- \(\cos{(\alpha – \beta)}=\cos{\alpha} \cos{\beta} + \sin{\alpha}\sin{\beta}\)
タンジェントについては\(\displaystyle \tan{\theta}=\frac{\sin{\theta}}{\cos{\theta}} \)という性質と上の加法定理を使えば、次の公式になります。
加法定理(タンジェント)
- \(\displaystyle \tan{(\alpha + \beta)} = \frac{ \tan{\alpha} + \tan{\beta} }{ 1 – \tan{\alpha} \tan{\beta} } \)
- \(\displaystyle \tan{(\alpha – \beta)} = \frac{ \tan{\alpha} – \tan{\beta} }{ 1 + \tan{\alpha} \tan{\beta} } \)
うーん…これ全部覚えるの大変だなぁ…。
よく見ると規則性があるので、共通なものはまとめて覚えてください。あと、順番もこの順番で覚えた方がいいです。
オススメは「形もこの形」「順番もこの順番」で覚えることです。
これは、後ほど「積和の公式」「和積の公式」を作りやすくするためです。
「覚えればいいんでしょ?」という感覚でグチャグチャに覚えたら後で必ず困ります。何事もそうなのですが、順番をしっかりと守ればあとで使いやすいです。
順序を守ること…これは様々な事の効率化に役立つので、意識しておきましょう。
加法定理の証明①「隙無し!」
座標平面と余弦定理を使うのがセオリーですね。流れとしては、
- 座標平面と余弦定理を使って、\(\cos{(\alpha – \beta)}\)の証明をする。
- \(\beta \rightarrow -\beta\)の置き換えと、\(\displaystyle \alpha \rightarrow \frac{\pi}{2}-\alpha\)によるサインとコサインの変換によって、残りの\(\sin{(\alpha + \beta)}\)、\(\sin{(\alpha – \beta)}\)、\(\cos{(\alpha + \beta)}\)を証明する。
- \(\displaystyle \tan{\theta}=\frac{\sin{\theta}}{\cos{\theta}} \)を使ってタンジェントの加法定理の証明をする。
です。座標平面で話をしているので、一般角の議論までできるところがこの証明の最大の利点です。あまり意識されませんが、結構重要ですね。
①が証明の本体です。②はとりあえずガンガン変換するだけなのですが、途中、ちょっと重要な変形があります。
それでは証明していきましょう!
①の証明。\(\cos{(\alpha-\beta)}=\cos{\alpha} \cos{\beta} + \sin{\alpha}\sin{\beta}\)を示します。
(証明)
いきなりですが、次の図を見てください。
この単位円上の点A、Bと原点Oを使って、△OABを作ります。
そして、点A\((\cos{\alpha} , \sin{\alpha})\)、点B\((\cos{\beta} , \sin{\beta})\)とすると、
(\(\alpha\)、\(\beta\)ってどの角?という疑問は置いておいてください。とりあえず単位円上にあるので、コサイン、サインを使って座標を表せます。)
二点間距離の公式から
\( AB^2 = (\cos{\alpha}-\cos{\beta})^2+(\sin{\alpha}-\sin{\beta})^2\)
\( \quad = \sin^2{\alpha}+\cos^2{\alpha}+\sin^2{\beta}+\cos^2{\beta}\)
\( \quad\quad -2(\cos{\alpha}\cos{\beta}+\sin{\alpha}\sin{\beta})\)
\( AB^2 = 2-2(\cos{\alpha}\cos{\beta}+\sin{\alpha}\sin{\beta})\)…(i)
一方、余弦定理から
\(AB^2 = 1^2 + 1^2 -2 \cdot 1 \cdot 1 \cdot \cos{\theta}\)
\(AB^2 = 2 -2 \cos{\theta}\)…(ii)
①、②より
\(2-2(\cos{\alpha}\cos{\beta}+\sin{\alpha}\sin{\beta}) = 2 -2 \cos{\theta}\)
よって、\( \cos{\theta} = \cos{\alpha}\cos{\beta}+\sin{\alpha}\sin{\beta} \)…(iii)
ここで、\(\theta\)について、\(\theta \Rightarrow \alpha – \beta\)としてみます。
「これで問題ないんじゃないの?」と思うかもしれないが、実際のところ\(\alpha\)、\(\beta\)は一般角なので、\(\theta = \alpha – \beta\)となる保証はありません(\(\theta\)はあくまで図形的にできあがった△OABの内角のひとつ)。
しかし、\(\theta \Rightarrow \alpha – \beta\)としても(iii)の式的には問題はありません。
なぜなら、\(\cos{}\)をとれば、\( \cos{\theta} = \cos{(\alpha – \beta)}\)になるからです。
よって、\(\cos{(\alpha-\beta)}=\cos{\alpha} \cos{\beta} + \sin{\alpha}\sin{\beta}\)(①終)
特に偏角のくだりは教科書にも書いていませんね…以前東大の入試問題で加法定理の証明が出たことがありますが、この辺りが出題の原因かもしれません。世の中「これは(権威のあるものだから)正しいだろ…」と思えるものでも正しいことを言ったり書いたりしているとは限りません。そういう意味でも、正しい判断ができるように数学力を身につけて欲しいです。
ここからは、三角関数の性質をどんどん使っていきます。
(証明)
\(\sin{(-\theta)} = -\sin{\theta}\)、\(\cos{(-\theta)} = \cos{\theta}\)、
\(\displaystyle \sin{\left( \frac{\pi}{2}-\theta \right)}=\cos{\theta}\)、\(\displaystyle \cos{\left( \frac{\pi}{2}-\theta \right)}=\sin{\theta}\)、という性質を使っていきます。
\(\cos{(\alpha-\beta)}=\cos{\alpha} \cos{\beta} + \sin{\alpha}\sin{\beta}\)…(※)
の\(\beta \Rightarrow -\beta\)に置き換えます。
\(\cos{(\alpha+\beta)}=\cos{\alpha} \cos{(-\beta)} + \sin{\alpha}\sin{(-\beta)}\)
\(\cos{(\alpha+\beta)}=\cos{\alpha} \cos{\beta} – \sin{\alpha}\sin{\beta}\)(←欲しい式の一つ)
次に(※)の\(\displaystyle \alpha \Rightarrow \frac{\pi}{2}-\alpha\)に置き換えます。
\(\displaystyle \cos{\left( \frac{\pi}{2}-\alpha-\beta \right)}=\cos{\left( \frac{\pi}{2}-\alpha \right)} \cos{\beta} + \sin{\left( \frac{\pi}{2}-\alpha \right)}\sin{\beta}\)
\(\displaystyle \cos{\left\{ \frac{\pi}{2}-\left( \alpha+\beta\right) \right\}}=\sin{\alpha} \cos{\beta} + \cos{\alpha}\sin{\beta}\)
\( \sin{(\alpha+\beta)}=\sin{\alpha} \cos{\beta} + \cos{\alpha}\sin{\beta}\)(←欲しい式の一つ)
この式の\(\beta \Rightarrow -\beta\)に置き換えます。
\( \sin{(\alpha-\beta)}=\sin{\alpha} \cos{(-\beta)} + \cos{\alpha}\sin{(-\beta)}\)
\( \sin{(\alpha-\beta)}=\sin{\alpha} \cos{\beta} – \cos{\alpha}\sin{\beta}\)(←欲しい式の一つ)
(②終)
以上でサイン、コサインの加法定理の証明は終了です!
途中の、\(\displaystyle \sin{\left( \frac{\pi}{2}-\theta \right)}=\cos{\theta}\)、\(\displaystyle \cos{\left( \frac{\pi}{2}-\theta \right)}=\sin{\theta}\)を使ったサインとコサインの変換はたまに使うので覚えていてもいいと思います。
数学IIIの定積分の証明などで置換を使ってサイン↔︎コサインの変換をしたりしますね。
(証明)
仕上げにタンジェントの加法定理の証明をしますが、\(\displaystyle \tan{\theta}=\frac{\sin{\theta}}{\cos{\theta}}\)と\(\tan{(-\theta)}=-\tan{\theta}\)の性質を使うだけです。
\(\displaystyle \tan{(\alpha+\beta)}=\frac{\sin{(\alpha+\beta)}}{\cos{(\alpha+\beta)}}\)
\(\displaystyle \quad = \frac{\sin{\alpha} \cos{\beta} + \cos{\alpha}\sin{\beta}}{\cos{\alpha} \cos{\beta} – \sin{\alpha}\sin{\beta}}\)
\(\displaystyle \quad = \frac{\frac{\sin{\alpha}}{ \cos{\alpha}} + \frac{\sin{\beta}}{\cos{\beta}} }{ 1- \frac{\sin{\alpha}}{\cos{\alpha}}\frac{\sin{\beta}}{\cos{\beta}}}\)(←\(\cos{\alpha} \cos{\beta}\)で割った)
\(\displaystyle \tan{(\alpha + \beta)} = \frac{ \tan{\alpha} + \tan{\beta} }{ 1 – \tan{\alpha} \tan{\beta} } \)(←欲しい式の一つ)
この式の\(\beta \Rightarrow -\beta\)に置き換えます。
\(\displaystyle \tan{(\alpha – \beta)} = \frac{ \tan{\alpha} + \tan{(-\beta)} }{ 1 – \tan{\alpha} \tan{(-\beta)} } \)
\(\displaystyle \tan{(\alpha – \beta)} = \frac{ \tan{\alpha} – \tan{\beta} }{ 1 + \tan{\alpha} \tan{\beta} } \)(←欲しい式の一つ)
ただし、以上の式変形中の分母は(分母)≠0とします。
(③終)
以上です!お疲れ様でした!
最後まで真面目に計算すると結構大変ですが、とりあえずポイントを押さえてもらえれば、と思います。
加法定理の証明②「図形利用その1」
この証明は、特に角度に関しての制約が厳しいので教科書などには載っていませんが、面白いので紹介します。
(証明)
図を使った証明方法です。
図より、\(\sin{(\alpha + \beta)}=\sin{\alpha} \cos{\beta} + \cos{\alpha}\sin{\beta}\)
\(\cos{(\alpha + \beta)}=\cos{\alpha} \cos{\beta} – \sin{\alpha}\sin{\beta}\)(終)
\(0° < \alpha+\beta < 90°\)というめちゃくちゃ狭い範囲でしか証明できませんが、三角比の話だけで証明できるのは面白いですね。
ちなみに「なんで各辺があんな値になるの?」という方はこちらをご覧ください。
加法定理の証明③「図形利用その2」
こちらの証明も図を使います。先ほどの証明と同じで教科書に載ってないのであまり有名ではありませんが、三角比の範囲で証明できます。
(証明)
三角形の面積を使ったアプローチです。
(△OABの面積)\(\displaystyle = \frac{1}{2}ba\sin(\alpha + \beta)\)…①
一方、
(△OABの面積)=(△OAHの面積)+(△OBHの面積)
上図の「赤い波線の辺のペア」と「青い波線の辺のペア」で面積公式を使うと、
(△OABの面積)\(\displaystyle = \frac{1}{2}b\cdot a\cos{\beta} \cdot \sin{\alpha} + \frac{1}{2}a\cdot b\cos{\alpha} \cdot \sin{\beta}\)
\(\displaystyle \quad = \frac{1}{2}ba ( \sin{\alpha}\cos{\beta} + \cos{\alpha}\sin{\beta}) \)…②
①、②より
\(\displaystyle \frac{1}{2}ba\sin(\alpha + \beta)=\frac{1}{2}ba ( \sin{\alpha}\cos{\beta} + \cos{\alpha}\sin{\beta}) \)
よって、\(\sin{(\alpha + \beta)}=\sin{\alpha} \cos{\beta} + \cos{\alpha}\sin{\beta}\)(終)
まとめ
加法定理の公式と証明をまとめました。
加法定理の証明は細かいところまでつきつめると、結構大変です。
ですが、三角関数の性質を沢山使うので、復習にもいいかな、と思います。一度自力で証明してみてください。
図を使った証明も面白いですね。こちらも三角比の基本をどんどん使うので、復習にもってこいです。