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背理法とは?無理数であることの証明例で教科書で説明しない重要事項とは?
教科書の証明でわかりにくい「背理法」…。
そもそも証明が苦手…。
背理法…言ってることがわかるようなわかんないような…。なんか、最初の説明が誤魔化された感があるんだけど…。
背理法?なにそれ?習ったっけ??
こんな声が聞こえてきそうです。
ただ、背理法は実は超強力な証明方法で、これを理解して使いこなせるかどうか?には、高校の数学で1ランク上の議論ができるかどうか?がかかっています。
ちょくちょく背理法が出題されますし、実は気づかずに背理法を使っている部分もあります。
この記事では、教科書では語られない背理法の根底の部分から、例を使ってわかりやすく説明していきます。
背理法とは?
…いや、絶対にいるんだ!この間見た!(気がする)
…いや、いないって。
(またなんか言い争ってる…どうせ太郎くんがわけのわからんことを言ってるんだろ…)
いるんだぁ!この志高湖(大分にある湖)には、全長10m、肉食の「シダカッシー」がいるんだぁ!
…
ということで、背理法です。
大分の志高湖(私が運営してるYoutubeでも紹介しました)はまぁまぁ広い湖ですが、さすがにシダカッシーがいる、というのは聞いたことありません…。とても平和な湖です。
ですが、じゃあ「本当にいないの?」といわれると、なかなか証明は難しいです。
「いること」を証明するのは簡単です。捕まえて来るなり、写真に収めるなりすればOKです。
シダカッシーを絶対に捕まえるんだ!そうすればいることが証明されるじゃないか!
ですが、「いないこと」を証明するのは難しいです。シダカッシーが本当にいないことを正攻法で証明するためには、志高湖を隅から隅まで調べていかないといけません。
このように、結論がわかりにくかったり、調べる範囲が広すぎたりして、正攻法で証明することが難しいときに役に立つ証明方法が背理法です。
数学的には正しくありませんが、雰囲気を掴むためにシダカッシーがいないことを証明してみましょう。
えー…この人、なに衝撃的なこと言ってんの?
(証明)
「志高湖にはシダカッシー(全長10m、肉食)はいない」ことを証明するために、背理法を使う。
この命題を否定、「志高湖にはシダカッシーがいる」と仮定する。
・全長10mもあるシダカッシーがいれば目撃例があるはず。志高湖は高々、広さ90000㎡、水深2〜5mである。志高湖はキャンプも盛んで、湖にはスワンボートまで浮かんでいるのに、目撃例がないのはおかしい。
・全長10mもあるシダカッシーがいれば、かなりの量の餌が必要である。だが、鯉も白鳥も呑気に過ごしているし、鯉なんか夥(おびただ)しい数泳いでいる。シダカッシーがいればもっと湖は荒れているはずである。
よって「志高湖にはシダカッシーがいる」と仮定すると矛盾が生じるので、元の命題、
「志高湖にはシダカッシーはいない」ことが証明された。
はい、ということでシダカッシーはいません。いると言い張るなら捕まえてきてください。どうやって10mもあるシダカッシーを捕まえるのか知らないですけどね、まぁ頑張ればいいじゃないですか?
(そんな言い方しなくてよくない?)
真面目に背理法の説明をする
ちょっと真面目に背理法の説明をしていきましょう。
段階を追って、すこしずつ丁寧に説明していきます。
背理法の根拠.命題は「正しい」か「正しくないか」の2択
数学の命題\(P \rightarrow Q\)は正しい(真)か正しくない(偽)かの2択です。どっちかわかんない…という曖昧なものは数学の命題ではありません。
つまり、背理法の根本的な考え方として、
命題について「正しくない(偽である)」としたときに矛盾が生じるなら、その命題は「正しくないとおかしい」
ということになります。
命題P→Qを否定する
ということで、命題を否定する(命題が偽であるとする)ことから背理法の証明ははじまりますが、この命題の否定もあまり教科書では丁寧に扱わない部分です。
まず、命題\(P \rightarrow Q\)について、Pのことを仮定といい、Qのことを結論ということは知っておきましょう。
そして、この命題の否定をすると、
\(P \rightarrow \bar{Q}\)
となります。命題を否定する、ということは結論だけ否定すればOKです。
もう少し具体例を使って命題の否定について考える
この命題を否定するときに結論だけ否定するというのをもう少し具体例を使って説明してみましょう。
例えば、
せんせい、もう少し宿題減らしてくださいよ…。
そうですね…今度のテストで平均点が90点以上だったら減らしてもいいですよ。
(んな無茶な…。)
という約束をしたとしましょう。このときの命題は
「テストで平均点が90点以上」→「宿題を減らす」
です。真偽でいえば、「テストで平均点が90点以上」が真(実際90点以上だった)で、そのとき「宿題を減らす」が真(約束が守られた)なら、この命題は「正しい命題」ということになります。
では、このときの命題を否定(命題が偽であると)すると、
「テストで平均点が90点以上」→「宿題を減らさない」
となります。ポイントは仮定である「テストで平均点が90点以上」は否定していない、という点です。
テストの平均90点以上だったけど、宿題は減らさないよ〜、残念でした〜。
ちくしょう!鬼!うそつき!
「テストで平均点が90点以上」が真(実際90点以上だった)で、そのとき「宿題を減らす」が偽(約束がやぶられた)のときに、この命題は否定(命題が偽であると)されたことになります。
もし、仮定まで否定してしまうとおかしなことになることがわかります。
「テストで平均点が90点未満(テストで平均点が90点以上、が偽)」→「宿題を減らさない」
テストの平均90点未満だったから、宿題は減らさないよ〜。
ん…?別におかしくない…というか。正しいですよね。
んー…否定になってるのかな?
と思いませんか?
実は命題は「仮定が偽であると、結論が真であれ偽であれ、その命題自体は真になってしまう」という性質があります。
仮定を否定してしまった場合、
「テストで平均点が90点未満」→「宿題を減らさない」
「テストで平均点が90点未満」→「宿題を減らす」
のどちらでも命題自体は真になる、ということですね。
テストの平均90点未満だったけど…しかたねぇ、宿題ちょっと減らしてやるか。
ひゃっふい!!
これでも、一応命題としては真になります。仮定というか条件が否定されてしまったので、その状況では結論がどうなろうと命題としては正しい、ということです。
ということで、
命題\(P \rightarrow Q\)を否定したければ、\(P \rightarrow \bar{Q}\)としましょう、
というお話でした。
矛盾をつく際のツッコミどころ「\(P \rightarrow \bar{Q}\)が成り立つとは?」
上記の「背理法の根拠」と「命題の否定の仕方」を押さえておけばほとんどOKですが、ここまできたので、最後まで丁寧に背理法の感覚を確認していきましょう。
最後は具体的な「矛盾をツッコむ」際のお話です。
背理法は、
①証明したい命題を否定する(正しくないとする)。\(P \rightarrow \bar{Q}\)。
②この否定した命題が成り立つ(正しくない)と仮定すると、矛盾が起きる。
③否定した命題(正しくない)がおかしいなら「(元の命題は)正しい」という結論になる。
という流れですが、具体的に②の部分について触れておきます。
結論からいうと、命題\(P \rightarrow \bar{Q}\)が成り立つということは、「\(P\)が成り立ち」かつ「\(\bar{Q}\)が成り立つ」ということです。
つまり、矛盾をつく際に「\(P\)が成り立ち」かつ「\(\bar{Q}\)が成り立つ」状態のはずだから、
どこかと論理が食い違う部分を探せば良い(大体、一般的な数学の性質や仮定である\(P\)の部分)
ということになります。
否定した命題が成り立つ、ということは
『「\(P\)が成り立ち」かつ「\(\bar{Q}\)が成り立つ」状態』だということを意識すれば矛盾をつきやすいかな、と思います。
背理法で実際に証明してみる
背理法を習うときに必ずと言っていいほど例になる「\(\sqrt{2}\)が無理数であることの証明」を使いながら、背理法の説明をしていきましょう。
例.\(\sqrt{2}\)が無理数であることを証明せよ。
ちょっと丁寧に説明していきますよ。
証明に入る前に、少し状況整理をしていきます。
① まず、命題の形をしていないのでわかりにくいですよね。無理矢理にでも命題\(P \rightarrow Q\)っぽくしてみましょう。
そもそも「\(\sqrt{2}\)が無理数である」というのが結論なので、これを否定すればいいのですが、
\( x = \sqrt{2}とする \rightarrow xは無理数である\)
とすれば、この命題が\(P \rightarrow Q\)の形になります。
② シダカッシーの話ではないですが、「無理数であること」を直接証明するのは難しいです。無理数は「有理数でない実数」という定義なので、正体がわかりにくいです。有理数\(\displaystyle \frac{a}{b}\)の形ではない、という条件は範囲が広すぎます。
③ 逆にこの命題を否定すると「\( x = \sqrt{2}とする \rightarrow xは有理数である\)」。これが成り立つと仮定すると『「\( x = \sqrt{2}\)」かつ「\(x\)は有理数である」』として話ができます。特に有理数\(\displaystyle \frac{a}{b}\)と置けることは大きいです。無理数じゃどうしていいかわからないですが、有理数なら形を\(\displaystyle \frac{a}{b}\)と表現できます。
ということで、今回は背理法で証明すると上手くいきそうです。
(証明)
\(\sqrt{2}\)が有理数であると仮定します。(\(「 x = \sqrt{2}とする」 \rightarrow 「xは有理数である」\)と仮定する。)
\(\displaystyle \sqrt{2}=\frac{a}{b}\)(\(a\)、\(b\)は互いに素な自然数)
とおけます。
有理数として置く際には、互いに素な自然数(or整数)で表します。そうしないと有理数の表し方が無限にできるからです。
例.\(\displaystyle \frac{1}{3} = \frac{2}{6} = \frac{3}{9}= \frac{4}{12}=\cdots\)
さて、\(\displaystyle \sqrt{2}=\frac{a}{b}\)を式変形すると、
\(\sqrt{2}a = b\)
\(2a^2 = b^2\)…①
この式から、\(b^2\)は2の倍数なので、\(b\)も2の倍数…(※)
よって、\(b= 2b’\)とおける。
①に代入して、
\(2a^2 = 4b’^2\)
\(a^2 = 2b’^2\)
ゆえに、\(a^2\)は2の倍数なので、\(a\)も2の倍数。
すると、\(a\)も\(b\)も2の倍数となるので、\(a\)と\(b\)が互いに素であることに矛盾する。
以上から、\(\sqrt{2}\)が有理数であるとすると矛盾が生じるので、\(\sqrt{2}\)は無理数である。(終)
【(※)の補足】
もしかしたら、ここも「なんで?」と思う人がいるかもしれません。
これ(\(b^2\)が2の倍数→\(b\)も2の倍数)も背理法で証明できます。
この命題を否定すると、
\(b^2\)が2の倍数→\(b\)は2の倍数でない(奇数)
すると、\(b=2b’+1\)とおけるが、\(b^2 = (2b’+1)^2 = 4b’^2 + 4b’+1 = 2(2b’^2+2b’)+1\)
となり、\(b^2\)は2の倍数であることに矛盾する。
よって、\(b\)が2の倍数でないと仮定すると矛盾が生じるので、\(b\)は2の倍数である。(終)
対偶を使っても証明できますよ。
「互いに素」のくだりが納得できない人はこちら
有理数って\(\displaystyle \frac{a}{b}\)の形だってだけだろ?\(a\)と\(b\)が互いに素である必要ないじゃん!
という、ひねくれもの…いや、数学的な思考力がある人のために、互いに素でなくてもできる証明法を紹介します。
議論はほとんど一緒です。最後の締めだけちょっと違います。
(証明)
\(\sqrt{2}\)が有理数であると仮定します。
\(\displaystyle \sqrt{2}=\frac{a}{b}\)
とおけます。
\(\displaystyle \sqrt{2}=\frac{a}{b}\)を式変形すると、
\(\sqrt{2}a = b\)
\(2a^2 = b^2\)…①
この式から、\(b^2\)は2の倍数なので、\(b\)も2の倍数
よって、\(b= 2b’\)(\(b’ < b\))とおけます。
①に代入して、
\(2a^2 = 4b’^2\)
\(a^2 = 2b’^2\)…②
ゆえに、\(a^2\)は2の倍数なので、\(a\)も2の倍数。
よって、\(a= 2a’\)(\(a’ < a\))とおけます。
②に代入して、
\(4a’^2 = 2b’^2\)
\(2a’^2 = b’^2\)
同様に、\(b’ = 2b’’\)(\(b’’ < b’\))とおけます。
…以下同様に考えると、どんどん小さい自然数\(a’’\)、\(b’’’\)、\(\cdots\)で置くことができます。
つまり、無限に小さい自然数で表すことができるということになります。
ところが、自然数の最小値は1なので、無限に小さい自然数とはなりません。
以上から、\(\sqrt{2}\)が有理数であるとすると矛盾が生じるので、\(\sqrt{2}\)は無理数です。(終)
このように、より小さい自然数で同じ性質を持つものを見つけることで、さらに小さい自然数で同じ性質を持つものを見つけ…「より小さい自然数で同じ性質を持つもの無限に作れる」ということで矛盾をつく方法を無限降下法と言います。
無限降下法はレベルが一段階上の背理法なので、教科書レベルでは「互いに素」として置く証明方法の方がスッキリします。
自然数なのに無限に小さくなるっておかしいよね…。
他にもある?「背理法をよく使う分野」
整数
整数分野ではよく背理法を使います。
「互いに素」や「余り」に関する証明で使うことが多いですね。
残念ながら高校では、新教育課程で章立てで整数を習わなくなりました。が、昔から難関大学では教育課程にある・なしに関わらず整数問題が平気で出題されてます。今後も注意です。
数列
パッと思い浮かぶ例で言うと、「漸化式で与えられた数列の各項が0でないこと」を示すときとかです。
例.\(\displaystyle a_1=\frac{1}{2}\),\(\displaystyle a_{n+1}=\frac{a_n}{4a_n+5}\)で定められる数列\( \{ a_n \}\)の一般項を求めよ。
このとき、漸化式の逆数をとるために「全ての自然数\(n\)に対して\(a_n \neq 0\)であること」を示さなければいけないのですが、大体は「\(\displaystyle a_1=\frac{1}{2}\)と漸化式の形から…」くらいで済ませてます。
これも厳密に言うなら背理法を使う方がいいでしょう。
ある自然数\(k\)について、\(a_k=0\)であるとする。(「全ての自然数\(n\)に対して\(a_n \neq 0\)」の否定は「ある自然数\(k\)について、\(a_k=0\)(どこかに\(a_k=0\)があればいい」)
漸化式より、\( \displaystyle a_{k}=\frac{a_{k-1}}{4a_{k-1}+5}\)なので、\(a_k=0\)のとき\(a_{k-1}=0\)。
これを繰り返すと、\(a_k=a_{k-1}=a_{k-2}= \cdots = a_1 = 0 \)となるが、\(\displaystyle a_1=\frac{1}{2}\)なので矛盾。
よって、「全ての自然数\(n\)に対して\(a_n \neq 0\)」
データの分析・統計
新教育課程で入ってきた仮説検定の正体は実は背理法です。
仮説検定の流れは、
- 対立仮説(主張したいこと)を否定した帰無仮説を準備する。
- 帰無仮説が成り立つとすると、ありそうに無いことが起きたことになる。
- よって、帰無仮説を棄却して対立仮説を採用する。
このとき、対立仮説(主張したいこと)に対して、それを否定した帰無仮説を準備しますが、この方法が背理法ですよね。
「帰無仮説が成り立つとすると、ありそうに無いことが起きた(矛盾だ)」と主張するのも背理法のやり方です。
行列
こちらは高校の教育課程から外れて久しいですが、大学になったら線形代数として必ずと言っていいほど勉強しますし、今流行りのAIなんかも線形代数の知識をモリモリ使っています。
例.\(A \neq O\)、\(B \neq O\)のとき、\(AB=O\)となるような行列\(A\)、\(B\)は逆行列をもたない。
「行列ってなに?」という人はこちらの記事もあわせてご覧ください。
行列は数字を行と列に並べて、ひとかたまりにして扱う分野ですが、その計算性質上、ゼロ行列(数字でいう0に相当)でなくても、掛けたらゼロ行列になる、という不思議な現象が起きたりします。
このとき、逆行列(数字でいう逆数に相当)をもたない、という性質があるのですが、これも背理法で証明できます。
\(A\)が逆行列\(A^{-1}\)をもつとする。
\(AB=O\)の左から\(A^{-1}\)を掛けると、\(B=O\)となり、\(B \neq O\)に矛盾する。
よって\(A\)は逆行列をもたない。(\(B\)についても逆行列を右側から掛けることで同様に証明できる)
簡単にいくつか挙げてみましたが、気づいたら追加していきますね。
まとめ
教科書ではあまり深掘りされていない背理法の説明でした。
「証明が苦手だ…」という人もいるかもしれませんが、背理法はちょっと言葉遊び的な部分もあるので、仕組みを理解しつつ、最初はあまり肩肘張らずに取り組んでみてください。
背理法ができるようになると数学の幅が広がるので、ぜひマスターしてほしいですね!